年頭のご挨拶:生成AIと教育の課題
2025.01.14
謹賀新年。2025年がやってきました。世界情勢が混沌とする中、生成AIを中心にあらゆる分野の飛躍的な発展が予感されます。今年もまた発信していきます。
カレル・チャペックとアイザック・アシモフの予言
この数年、カレル・チャペック、アイザック・アシモフの作品にある事柄が次々と実現されています。まさに彼らの予言とも言えます。
カレル・チャペック(1890-1938年)は、20世紀の前半に活躍したチェコ出身の思想家、小説家、エッセイスト、劇作家です。彼は、チェコ語で「強制的労働」を意味する「ロボット」という言葉を生み出したことで広く知られています。*1
彼が、1920年に発表した「RUR――ロッサム世界ロボット製作所(RUR:Rossum’s Universal Robots)」という戯曲があります。ここでは、人間に類似したロボット(Humanoid)の科学者たちが、人間が作るものより高性能な機械を発明し、やがて人類を征服し脅かす展開となっています。まさに、技術的な発展が人間の知性を凌駕するとした「シンギュラリティ」が描かれています。「シンギュラリティ」(AIが人間の知性を凌駕する時代)の到来については、2023年1月20日リリースした小職の新春特別稿第2弾「AIの知的営みと人間の創造性」に述べました。
一方、アイザック・アシモフ(1920-1992年)は旧ソ連出身で幼少の頃アメリカに移住した生化学者です。彼は20世紀を代表するSF作家の1人として広く知られています。*2 アシモフはいくつかロボットと人間との関わりについての物語を描きました。彼の作品の「鋼鉄都市(The Caves of Steel)」1953年や、短編集「われはロボット(I, Robot) 」1940-50年では、ロボットが人間にとって役に立つ存在として登場します。ここでは、人間とロボットの刑事が登場して、‘弥次喜多’のようなコンビを組んで次々と難事件を解決していきます。この中でロボット刑事は、家事のような単純で日常的のことから、刑事という職業人としてまで、幅広く何でもできる、’できた人’です。アシモフは、これらのいわば、‘ロボットもの’の中で、「ロボット三原則(Three Laws of Robotics)」を繰り返しています。アシモフはこの三原則の中で、ロボットと人間が共存し、ロボットが脅威にならないためには規制が必要であることを、第二次世界大戦さなかから語り始めているのです。*2
第1原則:ロボットは人間に危害を加えてはならない。或いは、
人間に危害が加わることを察知した場合、そのまま放置してはいけない。
第2原則:第1原則に反しない限り、人間の命令に従わなくてはならない。
第3原則:第1、第2原則に反しない限り、自身を守らなければならない。*2
生成AI と研究
AI(Artificial Intelligence)はコンピュータから発展し、ディープラーニング(深層学習)などの機械学習の機能が備わった人口知能です。1951年にこのAIを基にしたプログラムが発明され、人間のさまざまな活動履歴やビックデータの解析をして人間の知識や判断を補完する役割を担うようになりました。 現在では生成AI (Generative AI) に進化、発展しています。*3
生成AIでは多岐にわたるデータパターンの解析が可能になり、統計的に新奇性のあるクリエィティブな出力物、文章、音楽、画像、動画が可能となりました。*4この生成AIは研究者の活動にも影響を及ぼしています。 従来の研究者の研究はせいぜい2-3の専門分野を融合させるのが限界ですが、生成AIという強力な「相棒」により、短時間でさらに多種の分野の専門知識を融合し、研究を発展させることが可能になります。今後は短時間に膨大な論文が発表されることが予想されます。研究者が研究活動、論文の執筆を行う際、参考文献数も大幅に増えるでしょう。
しかしながら、生成AIはハルシネーション(事実誤認)を引き起こす落とし穴が潜んでいます。*4
その為、論文の真偽が今まで以上に問われることとなります。ここで疑問となるのが、真偽の判定を行うのは誰なのか、AIなのか、人間なのか? また、AIを利用する際のガイドラインなどAIの技術者や世界各国の政府や機関が協力して規制を作ることが必要となっています。ここでアシモフがロボット三原則にて繰り返したように人間が主体となることが求められるのです。
教育の課題
もう一つの側面として、教育への影響があります。生徒個々人、教師個々人の「見る」「見ない」によって、教育・知識の格差が拡大するということです。生成AIによって世界中に膨大な情報が拡散し、より多い情報が手に入りやすくなりますが、これからの時代、生成AIと共存するリテラシー、知識やスキルを持ち合わせる人物を育てることが教育の使命となります。課題は、
1.これらの膨大な情報にアクセスができても、まず自主的に興味を持たなければ知識になりえません。生徒が様々な分野に興味を持つには、教師が興味喚起をいかに多分野、かつ、頻度高く起こせるか。そして、学校がその環境や留学経験などの多様な経験を与えられるかが鍵となります。
2.「情報リテラシー」をどう取り入れるか。世の中に溢れかえる情報の海の中で、必要な情報の引き出し方、分別の仕方を訓練しなければなりません。それには文章の読解力、元々の科目の知識、そしてAIが導き出した出力との活用の仕方の訓練も必須となるでしょう。
3.従来の日本の理系や文系と科目選択が絞られているカリキュラム構成を、多分野の科目が選択できる構造に改革できるかが大きな課題となります。
2025年元旦
後藤敏夫
オービットアカデミックセンター 代表
ワールドクリエィティブエデュケーション CEO
脚注
*1 Britannica (n.d.) Karel Čapek, Britannica.
*2 Britannica (n.d.) Isaac Asimov, Britannica.
*3 Cole Stryker (9 August 2024) What is Artificial Intelligence (AI)?, IBM.
*4 加納寛子(2023年11月11日) 文部科学省が掲げる生成AIのガイドラインとは|教育現場での生かし方, 寺子屋朝日.