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4月20日「金環皆既日食」:シンガポールで部分日食が観られます

2023.03.18

「月日」というけれど…

「月日」というのは言い得て妙で、世界各地の人びとは信仰の対象でもあった「月」と「太陽」を正確に観測して暦を生み出し、暮らしの役に立ててきました。とりわけアジアの人びとは「月」の暦も「太陽」の暦もうまく組み合わせて大切にしてきた歴史をもちます。
 2023年は春分(3月21日)と新月(3月22日)が近接します。そして迎える新月はシンガポールでも大切な行事、イスラム教の「ラマダン」のはじまりでもあります。
 世界各地で発掘された遺跡の数々から、太古の時代には「春分」を一年のはじまりとした文化・社会が広まっていたと考えられます。「太陽が真東から昇り真西に沈む」ことが神秘と感じられ、「太陽信仰」と結びついていたのでしょう。今でもイラン人やクルド人は「春分」を1年のはじまりとする文化に属しています。一方、「月」をもとにする文化もシンガポールでは身近です。Chinese New Yearにはじまり、さまざまな宗教的な行事も「月齢」をもとにしたものがいくつも知られています。

「月」と「太陽」の邂逅

4月20日の「新月」の日には日食solar eclipseが起こります。今回は「皆既金環日食hybrid solar eclipse」で、これは今世紀に7度しか起こらない希少な天体現象です。数分続く「皆既日食total solar eclipse」の直前に一瞬「金環日食annular solar eclipse」が起こる神秘的な現象です。
 「皆既日食」とは太陽全体が月に隠されるもので、太陽フレアなど、さまざまな現象を観測することができます。それに対して、「部分日食partial solar eclipse」は太陽の一部が月に隠される現象です。太陽光が回り込むため肉眼では多少薄暗くなったと感じる程度で、観測用具や機器を使わないと観測することができません。「金環日食」は太陽の前に月が入り込みますが見かけ上の月の大きさが太陽の大きさに比べてやや小さいため、リング状に太陽が隠される現象です。こちらは木漏れ日など影のかたちの変化での観測もできます。

天球上での月の軌道と太陽の軌道がずれているため、同じ場所で月と太陽が重なる機会はなかなかやってきません。さらに天候条件も含めて、「日食を観る」機会は限られています。天気が悪ければ(曇っている程度でも)見ることはできないですから。

「食」の神秘

そんな「食」を目にすることは人びとにとって「神秘」だったようです。比較的目にすることの多い「月食」に比べて「日食」はさらに希少な現象でした。
 月食は多くのところで年に1度ほど見られます。それに比べて「日食」を目にすることはかなり稀なことだったのです。それは単純に頻度が低いこともありますが、「金環日食」や「部分日食」だとまわりが少し薄暗く感じる程度で、太陽が欠けた様子を肉眼で観測することができず、人びとが見るのは数年十数年に一度、あるいは一生に一度目にする「皆既日食」だったからです。
 そうした「神秘」に出合った人びとによって出来事は語り継がれ、世界各地で日食現象をもとにした「神話」が残っています。日本でも「天岩戸神話」がよく知られていますね。

 太陽の女神アマテラスは弟のスサノオのあまりの乱暴に悲嘆に暮れて天岩戸(アマノイワト)の中に引き篭もってしまった。世界が暗闇に落ちたことに困惑した神々は知恵を絞ってアマテラスを引き出すための作戦を実行した。岩戸の前で大宴席を開き、女神の興味を引き、油断したところをアメノタヂカヲの怪力で岩戸の中から引き出し、再び女神を世界に姿を現させた…

今回シンガポールでは「部分日食」

2019年12月26日に「金環日食」が見られたシンガポールです。日本でも遡ること2013年5月21日に広い範囲で「金環日食」が見られました。どちらか(どちらも)見られた方もいらっしゃることでしょう。ですが、残念ながら今回「金環」現象、「皆既」現象が見られるのはほとんどが太平洋上で、シンガポールでは「部分日食」となります。さらに日本では本州・四国・九州南部以内の地域でしか見られません。)おそらく多くの天体マニアがクルーズ船で繰り出して太平洋上で「金環皆既日食」を観測する人びともいることでしょう。
 シンガポールでは、10時54分にはじまり、11時55分に最大食を迎え、12時58分に「食」が終了します。この20年、曇りの確率が9割だそうですが、ひとりでも多くのみなさまが「日食」を見られますよう、好天を期待しています。

最後に、日食を見るときの注意です。太陽を直接見てはいけません。そこには2つの理由があります。まず、それがほんの一瞬であっても目を痛めるからです。また、太陽の光が強すぎて「日食」の姿などまったくわからないからです。日食用のグラスを通して、あるいは観測機器を通して観察してください。さまざまな観察方法があるので、下記のwebsiteなどを参考にするとよいでしょう。

参考)

1) 2023年4月20日、シンガポールでの日食について
https://www.timeanddate.com/eclipse/in/singapore/singapore?iso=20230420

2) 日食について(国立天文台)
日食全般
https://www.nao.ac.jp/astro/basic/solar-eclipse.html
観察方法
https://www.nao.ac.jp/astro/basic/solar-eclipse-obs.html

地球上から見える「日食」の移ろい(皆既日食の場合)

【筆者紹介】
佐藤泰介(さとうたいすけ)
京都生まれ、京都育ち。 研究者や建築家に憧れ、高校時代には世界文学や哲学書を読み漁り、大学時代は映画三昧。 大学院ではコーカサス研究。