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【OB特別寄稿】 人間の行動や社会の変化を分析 第3回 政策研究博士 江上弘幸氏

2022.12.11

本稿はオービットOBの政策研究博士 江上弘幸氏(現在 日本大学経済学部 専門研究 助教授)が、「オービット生が知的に刺激されるような『知の探究』のための原稿を寄稿してほしい」というオービット太郎の依頼に応えて寄稿した書き下ろし原稿です。
全3回のシリーズ掲載です。
「第1回 統計的因果推論に魅せられて」(2022年10月20日投稿)
「第2回 研究者になる方法」(2022年11月15日投稿)も合わせてご覧ください。

第3回 社会科学研究者の生活

最後に、社会科学研究者が普段どのように暮らしているか、仕事の様子を紹介します。

3.1. 研究テーマを選ぶ

自分が好きなテーマを選びます。好きでワクワクするというのが大事です。好きでなければ、やる気が出ず、パフォーマンスが下がってしまいます。「社会貢献できそう」「学会でウケそう」という理由で研究テーマは選びません。理由の一部になることはあるでしょうが、主な理由としているひとはほとんどいないと思います。
例えば、私が「ビデオゲームが人に与える影響」について研究しているのは、ゲームが好きだからです。しかもこの分野は、科学的に結論が出ていないことばかりです。特に、ゲーム依存症とも呼ばれるIGD(Internet Gaming Disorder, インターネットゲーム障害)については、依存的な行動がゲームのせいで起きているのかどうかすら、分かっていません。例えば、家庭環境が真の原因と言う学者もいます。科学的に分かっていないことばかりの分野で研究するのはワクワクします。

3.2. 研究する時間や場所を選ぶ

自分が集中できる場所と時間を選びます。私の場合は、家の近くのオフィス、大学のオフィス、もしくはカフェで仕事をします。家ですることもありますが、頭を切り替えるために外に出かけることが多いです。なるべく午前に、集中力の必要な細かな作業(データ処理など)を進めます。夕方には、アイデアの必要な創造的な仕事(論文執筆など)に取り組みます。午前・午後にどんな仕事が捗るかについては、心理学の知見があるので、それを参考にしています(引用1)。
自分のパフォーマンスを高めるために、どのくらいの時間をどの研究にわりあてるか、スケジュールをたてて行動します。1週間単位と数ヶ月単位の2種類のスケジュールをたてています。1週間ごと、数ヶ月ごとに振り返って修正します。
週に1度、研究者仲間とのミーティングで、「今週はこの研究をこのくらいすすめる」という宣言をしています。自分のお尻をたたくためです。このやり方は、『できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか』という本を参考にしています。この本には、論文の書き方が書かれてるかと思いきや、ほとんどが計画的に物事をすすめるために役立つ心理学の知見に割かれています。

3.3. 一緒に研究する人を選ぶ

多くの社会科学研究者は、チームを組んで研究します。私の場合は、自分が楽しく研究できる人と組みます。例えば、シカゴ大学と東京大学に在学していたころの同僚や、政策研究大学院大学で博士号を取る際にお世話になった先生と一緒に研究しています。どの人とも気の置けない間柄で、安心して高いパフォーマンスを発揮できます。

3.4. 前職との対比

前職では、上の3つのいずれについても、良い選択ができませんでした。会社組織から離れた結果、以前よりもパフォーマンスが上がったと感じています。
上の3つを意識するのは、どんな仕事でも大事です。特に、いい仕事をするには、自分が楽しめる仕事を選ぶのが大切です。有名な会社に入社して、我慢してレールに乗っていれば、一生会社が守ってくれるという時代は終わりました。皆さんもぜひ、自分を楽しませることで、潜在能力を発揮して成長し続けてください。
(終わり)
引用文献 引用1 ロン・フリードマン著「最高の仕事ができる幸せな職場」

 特別寄稿ありがとうございました

この度は貴重な原稿を寄稿していただきありがとうございました。 おかげ様で生徒たちのいい刺激となっています。偉大なる発見や発明の原点である、推論と検証を繰り返し行う学問的アプローチの一つとして統計的因果推論について考えるいい機会となっています。この魅力を発見した生徒も少なくありません。研究者に興味を持った生徒もいます。オービットの原点である「思考力を涵養する」「面白いと思い、探求する行動力」をOBの研究の中で見せていただけたことは私たち職員一同にとっても至極の喜びです。また、江上さんの「人生は一直線ではない」とのメッセージ、奥深く響きました。Constructive energyをもち続けるダイナミズムもこの時代を生きていく上で必要な力ですね。
江上氏の研究の成果が楽しみです。生徒たちへの刺激もまたお待ちしています。今後のさらなる活躍を心より応援しています。
オービットを代表して感謝をこめて オービット花子こと後藤節子
 

江上弘幸氏の「卒業生の活躍・合格後の活躍を支えるインタラクティブな授業 2022年10月20日付」を合わせてご覧ください。