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「英語で理科を」、「理科で英語を」学ぶために

2024.02.14

英語「で」学習するときの壁は「語彙力」?

英語で数学や科学を学び始めた生徒たちがまずぶつかるのが単語です。私は日本人中学校のグローバルクラスの生徒や、熱意あるメインストリームの生徒、インター校に入ったばかりで、英語での理数教科の学習に早く慣れたいと思っている生徒などを対象にした「グローバル理数クラス」を担当していますが、そのようにある程度英語に親しんだ生徒たちであっても、覚えるべき理系の英単語の多さや、ひとつひとつの複雑さに四苦八苦しているようです。

そこで本コラムでは、理系の英単語とどのように向き合えばよいのかをいくつかのパターンに分けて紹介し、その覚え方を通じて、英単語や英語、ひいては新しく物事を学ぶ際の態度についてもお話しできればと思います。

たとえば、次の英単語の意味を考えてみましょう。
①invertebrate
②photosynthesis
③sodium chloride

接頭語(prefix)を理解し、暗記量を節約!

①接頭語を見るパターン

invertebrateは「無セキツイ動物」です。これは接頭語in-の役割に注目することで簡単に理解することができます。日本語のいわゆる「不・無・非・未(ふむひみ)」と同じで、in-には後ろの言葉を打ち消す役割があります。vertebrateの「セキツイ動物」という意味を知っていれば、知らなくても類推することができます。

これは日常的な単語にも応用できます。たとえば、impossible=in+possible→不可能な、irregular=in+regular→不規則な、illegal=in+legal→非合法の、などですね。

語幹を覚え、理解できる言葉を増やす!

②語幹ごとの意味を組み合わせるパターン

photosynthesisは「光合成」です。これはphoto(光)+synthesis(合成)と、語幹ごとの意味を組み合わせたものになっています。

さらにsyn-「共に」まで分解しておけば、sympathy(pathyは「感じる」→同情する)や、symphony(phonyは「鳴る」→交響曲)まで理解できますね。中学校1年生の理科の物理分野では波や音を扱いますが、音を合成するsynthesizer(シンセサイザー)の原理として、三角関数の合成やフーリエ変換まで脱線するところです。

説明のために「造られた」言葉を利用し、「暗記」から「理解」へ

③現象が体系的にまとめられているパターン

sodium chlorideは「塩化ナトリウム」、つまり食塩です。日本語ではラテン語のナトリウムをドイツ語経由で採用しましたが、英語ではsodiumといいます。chlorideはchlorine(塩素)がイオン化したものです。電子のやりとりを介して起こるイオン結合において、電子を得て陰イオンになる方に-ideを付ける、というルールがあります。日本語では「~化物イオン」ですね。

このように、現象や物質を人工的に名付けている場合、言葉に気をつけることで現象の理解も深めることができます。逆に現象を理解できれば言葉の暗記が楽になる、そういった学習の相互作用があります。「名は体をあらわす」といいますが、特に理系用語の場合、先人たちは私たちを困らせたかったわけではなく、むしろなるべく楽に伝わるように考えて、そこに現象や成り立ちを反映させたり、なるべく体系的になるように腐心してしながら単語を作っていったはずですね。

「言葉」は、そもそも「覚えやすい」ように作られている

ここまで三つの例を紹介しましたが、共通して大切なことは「言葉は覚えるものではなく、理解するものである」ということです。

単語をただのアルファベットの羅列とみなして覚えることを私は「円周率的暗記」と呼んでいます。すべての単語をこのように覚えようとする態度では、遅かれ早かれ破綻してしまいますし、第一、楽しくありません。しかし、上で述べたように接頭語や語幹にまで単語を分解しておくことで、幾何級数的に語彙を増やすことができます。本稿では単語に留めましたが、文章を読む際にも「全体」は「部分」に分解して、それらの関係(主語と目的語の関係や、修飾と被修飾の関係など)を確認することで、より精確に理解することができるという感覚は大切になります。

もちろん、たとえばvertebrateの「無セキツイ動物」という意味は覚えていなければ(理想をいえばより直接的に、見たらイカやカタツムリなどのイメージが湧くようになっていなければ)なりません。重要なのは「覚えるべきこと/身体で反応するべきこと/考えて導くことの境界をどこに引くか」ということまで含めて、考えることなのです。

「英語で理科を」「理科で英語を」、そして他の科目にもつながる学習へ!

以上で述べた方法は一義的には単語を覚えるのが楽になるということですが、長期的にはこれらの体験を通じて学習のスキルを向上し、また、分野や言語を飛び越えて自由に考える楽しさを体験してもらいたいと思っています。

 

(グローバル理数クラス担当 数学科 東)