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How many ‘NewYears' do you have ?

2023.12.02

How many ‘New year's do you have ?

まもなくクリスマス、新年を迎えます。日本では、こども達には楽しみな冬休み、おとな達は楽しみは多いけれど、出費も多い「師走」となります。皆さんは、世界には実にたくさんの「新年」があり、皆、たくさんの「祝祭」をそれぞれに楽しんでいることをご存じでしたか?

日本の年末年始

まずは、この年末年始からみてみましょう。日本では、年末から年始にかけての「クリスマス」(キリスト教)、「除夜の鐘」(仏教)、「初詣」(神道)の、宗教の入り混じった行事が目白押し。弁才天の縁日である「初巳(はつみ)」、さらに、恵比寿神社の祭礼「初ゑびす」なんてありますから、行事だらけの半月ほどを過ごします。

日本全体でクリスマスを祝うようになったのは戦後しばらくしてからでした。それ以前はクリスチャンが厳粛に祝うものだったようです。

遡(さかのぼ)ると、クリスマスはもともとは「イエスの誕生日」の祝日だったわけではありません。ゲルマン人の冬至の祭事やらローマ人の新年の祝祭やらに「イエスの生誕」が加わり統合され、現代の「クリスマス」となり世界中に広まったのです。キリスト教会においては「降誕祭 Nativity」が別に行事として定められていますが、もはや「クリスマス」と「イエスの生誕」(実際、時期も近いので)を同じものとして行事を行うことが多くなりました。世界的に12月24日から25日にクリスマスをお祝いするキリスト教会が主流ですが、アルメニアやギリシャの正教会では1月6日「公現祭 Epiphany」を丁寧に祝う習わしを守り続けています。

「除夜の鐘」から「初詣」、おもしろいのは「時間」に関して地域差があることです。今では「0時」を境にしているところが多いようですが、日が落ちれば、詣はじめ、日が明ればと文字通り「元旦」(「初日の出」の意)で、詣はじめという地域もあります。この方がむしろ自然の営みとの繋がりを感じやすいかもしれません。

世界の「暦」

さて、「旧正月」というものもあります。北東アジア地域から東南アジア地域に広がる「旧正月」。韓国や台湾、沖縄、そしてここシンガポールにおいても「月の満ち欠けによる新年」は、とても大切にされています。例年1月下旬~2月の新月の日に当たります。2024年は2月10日が「旧正月1日」です。

また、「複数の暦を共存させる」ことに人間の知恵を感じます。代表的なのは「太陽太陰暦」というシステムです。数千年来、人類が農業に従事するのに、「太陽暦」(太陽の位置にもとづく暦)と「太陰暦」(月のかたち・位置に基づく暦)を組み合わせることで、その時機を計ってきました。現在の欧米や日本においても、自然派栽培を掲げる生産者のなかには「月齢」にもとづいて栽培スケジュールを計画・実践する人たちが少なからず存在します。

地域文化的な有様(ありよう)の中にも、複数の暦の併用や組み合わせが見られることがあります。たとえば、世界中で暮らすムスリム(イスラム教徒)にとって、ラマダン(断食月)をはじめとする各行事は「イスラム暦」に基づいて行われ、その国で使われる一般的な暦と併用されています。ユダヤ人もそれぞれの社会の中で、その地域の暦と宗教的な暦をうまく組み合わせて暮らしています。

いろいろな「新年」

そして日本はまさに多様な「暦」の「祝祭」の集積地と言えます。そもそも日本人は「複数の暦」に寛容、つまり,「ひとつの暦」に拘(こだわ)りがないのかもしれません。沖縄をのぞき「新年」といえば西暦に基づくもの。それ以外にも「暦」の上では、いくつもの「新年」があります。

・立春(2月4日): 二十四節気のはじまり。「節分」は立春の前夜祭。豆をまいて前年の災厄を取り除き新しい年を迎える行事です。近年では、関西地方の一風習であった「恵方巻き」が全国に広まっています。
・彼岸(3月21日頃・9月20日頃): 春分・秋分  太陽信仰にもとづく。原始社会においては多くの地域で新年だったと考えられる。今でもイラン人やクルド人は新年とする。ちなみに、フランス革命暦では「秋分が新年」でした。
・エイプリル・フール(4月1日): 古代ローマでの正月が起源で、まさに「新年の無礼講」!フランスでは「4月の魚Poisson d'Avril」という(漁の解禁日だったそうです)。
・花祭り(4月8日): 釈迦の生誕記念。寺院で祝う。おもしろいのは国によって日がちがう。
・ハロウィン(10月31日の日没後): アイルランド人の祝祭で、もともとはケルト人の新年を迎える行事。悪霊たち扮したこども達が、家々を'Treat or Trick!'、と訪ねてお菓子をもらって、悪霊に元の世界に戻ってもらうようお願して、新たな新年を迎える準備をする。'All Hallows' Day'(万聖節)と呼ばれる。

シンガポールの祝日

シンガポールの例を考えてみると、複数の暦を併用することはやはりこの地の文化の多様性を象徴し形成する礎(いしずえ)となっています。 祝日をみてみるとよくわかります。いろいろな民族的・宗教的行事がもとになっています。「新年」やそれに準じる祭礼をみてみましょう。(太陰暦やイスラム暦、ヒンドゥ暦で祝日が決められるものは年によって日付が変動します。)

・New Year「元日」: 1月1日。シンガポールをはじめ、1月1日だけ祝日で、2日から学校や事務所が始まっている国が多い。そうした国々は、クリスマス休暇か旧正月に長めの休暇をとる。
・Lunar New Year「旧正月」: 2024年は2月10日が旧正月初日となる。毎年アジアでは長期の休みをとる地域が多い。太陰暦(月齢)にもとづく新年。春の訪れとされ、「春節」とも呼ばれる。日本でも各地の中華街で獅子舞が繰り出し、華やかな祝祭が繰り広げられることで知られている。
・Good Friday「聖金曜日」: 2024年は3月29日 。キリスト教の祝祭。「復活祭」の前の金曜日。イエスキリストが人々を救うために十字架にかかった日から「蘇りの日曜日」までの3日間を祝う。
・Hari Raya Puasa「ハリ・ラヤ・プアサ」(ラマダン明け): 2024年は4月10日。 イスラム教の祝祭。イード・アル・フィトル。近年、日本でも知られるようになった「ラマダン」(断食月)明けの祝祭。
・Vesak Day「ヴェサック祭」:2024年は5月22日。 釈迦の生誕を祝う、仏教のお祭り。日本の「花祭り」(4月8日)に相当。日本では釈迦の誕生、成道、入滅をわけるが、南方仏教では1つにまとめている。
・Hari Raya Haji「ハリ・ラヤ・ハジ」: 2024年は6月17日 。イスラム教の祝祭。イード・アル・アドハー。収穫を神に捧げる。その意味から別名、巡礼祭や犠牲祭とも呼ばれる。
・Deepavali「ディパバリ」: 2024年は10月31日。 女神ラクシュミーの祭日。ヒンドゥ教のお正月。別名「光の祭典」と呼ばれる。ディパバリが近づくとインド人の家庭の窓やインド人街は夜ネオン装飾が華々しく煌(きら)めく。
・Christmas「クリスマス」:12月25日 。キリスト教の新年を祝う一連の行事。

※その他、宗教に関係のない国の祝日もあります。

こうして多民族国家であるシンガポール社会に存在していることによる文化の豊かさを体験しながら、絶対的価値と相対的な価値の双方を学び「よく考える」探究の場を提供したいとにオービットは考えています。

年齢の数え方

ちなみに、新年といえば「数え年」。「年中行事」や「厄年」の考え方の中に残っています。私たちがこどもの頃にはまだ「数え年」でも年齢を表す風習が残っていました。韓国では2023年から世界標準の「満年齢の制度」に変更になったばかりです。「数え年」とは生まれたとき(年)を「1歳」と数え、年が明けるごとに1つずつ年齢が加わる年齢の数え方です。新年を迎えると「1つ歳を重ねる」のです。例をとると、1982年生まれの方は今年中にみな「満42歳」の誕生日を迎えますが、「数え年」ではすでに元日に「数え年42歳」を迎えます。また、2023年12月25日に生まれた子は生誕時「1歳」で、2024年1月1日に年齢を1つ加え「2歳」になります。生誕1週間ですでに「2歳児」となるのです!学齢期、子どもの時分は1つの年齢の違いが大きく感じられますから、数え年で年齢を表すとずいぶんと「お兄さん」「お姉さん」で、なんだか「背伸びした」感覚にもなるでしょう。そういえば、「お年玉」って昔は誕生日祝いみたいなものだったのかしら。

「暦」そのものは天文学や農学、生物学等、諸学問による知恵の体系です。かつて「暦」は聖職者が作りました。歴史的にどこの文化でも聖職者は学者集団でしたから。新しい年が皆さんの学問の新たな入口となりますように!

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