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Home オービットタイムズ 【後藤敏夫のグローバル教育ニュース】英語プログラム導入が進む非英語圏の大学 ?⑤スイス連邦共和国(1)

【後藤敏夫のグローバル教育ニュース】英語プログラム導入が進む非英語圏の大学 ?⑤スイス連邦共和国(1)

2021.09.14

複言語国家スイス…永久同盟に端を発する連邦国家

1291年8月1日、現在のスイス中央部のウーリ、シュヴィーツ、ウンターヴァルデ地域の代表者がリュトリの丘に集まり、ハプスブルク家を中心とした封建諸侯の支配に抵抗し、自治を守るため永久同盟・盟約者団(※1)を結びました。この盟約者団が、スイス連邦の原型(=ヘルベチア)となっていきます(スイスの発祥伝説)。 ※1スイスの発祥伝説―ウィリアム・テルの伝説:ハプスブルグの代官に命令され、息子の頭にのせたリンゴを矢で射抜いたウィリアム・テルは、その後代官を殺害しました。この事件がスイスの発祥伝説の基になったことは有名です。 これ以降、盟約者同盟は、常にアンチ・ハプスブルグ家、アンチ神聖ローマ帝国を軸に、多言語・他民族の連邦国家として生き延びてきました。その後約800年間、基本的には周辺の各国の戦争に巻き込まれないよう、中立政策を堅持していきます。 ヨーロッパの諸侯同士の一大領土戦争であると同時に、キリスト旧・新教の一大宗教戦争の観を呈した「30年戦争」(1618年~1648年)においても、盟約者同盟=スイスは中立を守り、神聖コーマ帝国(※2)から、独立を認められました。 ※2 神聖ローマ帝国:現在のドイツ・オーストリア・チェコ・イタリア北部を中心に存在していた国家。9世紀から10世紀に成立し、1806年まで続いた。西ローマ帝国の後継国家を称した。 それ以降、近世・近代を迎え、資本主義の時代を迎えても、スイスの連邦国家の「ありよう」は基本的に変わりませんでした。 20世紀末、1993年にマーストリヒト条約が発効し、12か国によってEU(=欧州連合)が結成されます。その後EU加盟国が27か国増加しても、スイスはこの枠組みには加盟せず、自国に有利なポイントに絞って外交政策を追求する中立政策を堅持しています。 人口900万人未満の小国にもかかわらず、西ヨーロッパの中央部に位置するという地政学上の有利点とこの中立政策が効を奏し、多くの国際機関や国際金融機関がスイスに存在し、複言語国家の強みを生かして活発な活動を行っています。

スイスの概況

国名:スイス連邦(Swiss Confederation) 州(カントン)の数:26 面積:41,285 平方キロメートル(日本の九州よりやや小さい) 人口:866万7,100人(2020年末 スイス連邦統計局) 首都:ベルン(人口13万4591人:2019年末 ベルン市役所) 宗教:カトリック(35.1%)、プロテスタント(23.15%)、イスラム教(5.4%) 特定の宗教なし(7.8)、不明(1.2%)(2020年末 スイス連邦統計局)

スイスの言語事情

スイスでは、下記の4言語が公用語として指定され、それぞれ国語としての位置を保持しています。それぞれ言語圏を保持し、異なる文化をもっています。 <4つの公用語と使用比率>(2019年末 スイス連邦統計局) ・ドイツ語(高地ドイツ語)……62.1% ・フランス語……22.8% ・イタリア語……8.0%         ・ロマンシュ語……0.5% 連邦レベルでは、ドイツ語、フランス語、イタリア語が公的な官庁用語です。ロマンシュ語は、ロマンシュ語を話す人々が公共交通機関を利用する際に不便のないよう使われています。すべての官庁文書(法律文書、報告書、インターネットのサイト、パンフレット、建物の表示)はドイツ語、フランス語、イタリア語で作成されています。 ※3ロマンシュ語;アルプス山間部(グラウビュンデン州)で話される言葉。1982年スイス政府とグラウビュンデン州がロマンシュ語の保護政策を打ち出しました。州政府は人工の書き言葉ロマンシュ・グリシュン語 ( Romansh Grischun )を作り、それを公用語に定めました。この言語を使われている地域の小学校教育はロマンシユ語でおこなわれています。従来は「田舎言葉のイメージが強く、いずれ消滅される」と言われていましたが、ロマンシュ語教育の成果が出始め、イメージが大幅に改善、ロマンシュ語のヒップホップバンドまでが出現しています。 <スイスで話される外国語> スイスで最も多く話されている外国語は英語です。続いてポルトガル語、スペイン語、セルビア語、クロアチア語、アルバニア語の順です。これらの外国語を合わせると、話し言葉としてはロマンシュ語とイタリア語のいずれの話者の数も上回ります。英語は人口の約45%が日常的に話し、特にドイツ語圏では他の地域よりも広く話されています。 20210915

(続く)

(本記事は、オービットアカデミックセンター会報誌 プラネットニュース 2021年9月号(2021年8月20日発行)に掲載された内容です。)