【後藤敏夫のグローバル教育ニュース】英語プログラム導入が進む非英語圏の大学・・・②フィンランド
2021.04.15
教育・研究を主要産業にする北ヨーロッパ
スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランドの4国は、大学教育のグローバル化と研究拠点の創成を国家の一大産業にすべく、新しい試みを開始しています。 これらの国は、もともと準ドイツ語圏。1990年代くらいまでは、修士以上の大学院教育は、それぞれの母語とともにドイツ語によるコースが一般的でした。 2000年以降のグローバル化の流れの中では、英語の汎用性が急激に上昇。各国の大学の大学院レベルでは、英語による教育が一般的になりました。さらに、2010年以降は学部レベルの「英語学位プログラム」が急増。いずれのコースも留学生に人気となり、留学生が増加。大学の国際化に大きな役割を果たしています。フィンランドの新鋭大学アアルト大学(2010年創立)
北ヨーロッパの学際・先端研究と、イノベーションの拠点を目指している特異な新鋭大学です(QS世界ランキング127位、QS新鋭大学ランキング9位)。 2010年、フィンランドのヘルシンキ首都圏にある3つの大学―ヘルシンキ工科大学、ヘルシンキ芸術デザイン大学、ヘルシンキ経済大学が合併して、8学部(工学部、電気工学部、化学技術学部、理学部、ビジネス学部、美術・デザイン・建築学部)を擁する総合大学・アアルト大学に生まれ変わりました。 全く異なる分野の3つの専門大学が、先進的で学際的な研究を行い、イノベーションの創出と起業家の育成をコア概念とする全く新しい総合大学に統合。フィンランド政府が支援する「新たな高等教育の公開実験の場」という野心的な試みを当初から目指しています。 全学生数約12,000名のうち約55%が大学院生で、リサーチが強く、プロジェクト型の実践学習が極めて多い大学です。創出時よりフィンランド政府が全面支援し、3大学の統合資金約5,700万ユーロ(約73億円)を拠出。また、世界中の企業やファンドから資金提供を受け、多くの野心的なプロジェクトが進行しています。学部の他に多くのラボ、研究ユニットが作られました。 <アアルト大学関連のラボやネットワークの例> ●ファクトリー(Factories):専門分野の異なる研究者・学生の学際的協同ネットワーク ・デザインファクトリー(Design Factory) ・メディアファクトリー(Media Factory) ・サービスファクトリー(Service Factory) ●アアルト起業家協会(Aalto Entrepreneurship Society) 学生により運営されるヨーロッパ最大の起業家コミュニティであり、スタートアップとしてサウナ促進プログラムを組織し、2010年以降に3,600万米ドル以上のファンドを集めました。 ●ヘルシンキ情報工学研究所(Helsinki Institute for Information Technology) ヘルシンキ大学との共同研究ユニット ●アアルト科学研究所(Aalto Science Institute):学際的研究イニシアティブ 他多数 <学群(スクール)と学部レベルの英語学位プログラムの例> ●ビジネスと経済学群 ・経済学と国際関係 ・国際ビジネス ●理工学群 ・量子力学 ・化学エンジニアリング ・コンピュータ工学 ・データサイエンス ・システムデザイン ●人文学、デザイン、建築学群 ・デザイン 人口約550万人の小国が、全く新しいコンセプトと戦略で、3つの大学を統合。わずか10年あまりでQS世界ランキング127位の新しい大学をランクインさせ、世界中から研究者・教授陣と研究資金獲得に成功していることは、特筆に値します。 ※この大学ではオンラインによる遠隔授業が大学発足時から実施されています。様々な分野やパートタイム授業に使われ、Covid-19下においても活用されています。(続く)
(本記事は、オービットアカデミックセンター会報誌 プラネットニュース 2021年4月号(2021年3月20日発行)に掲載された内容です。)