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【後藤敏夫のグローバル教育ニュース】宇宙観を変えるノーベル物理学賞の発見②宇宙の姿が分かってきた

2020.01.15

もう一つの画期的発見に対するノーベル物理学賞は、アメリカ・プリンストン大のジェームズ・ピーブルス名誉教授(1935~)の「宇宙論における理論物理学上の発見」に対して贈られました。「宇宙論」とは物理学の一分野、宇宙がいつどのように始まったか、宇宙全体がどのような構造を持っているか? 等を研究する分野です。

宇宙から来るマイクロ波宇宙マイクロ波背景放射

ピーブルス名誉教授の宇宙論への貢献は、「宇宙マイクロ波背景放射」の発見・解明に端を発したと言ってよいでしょう。(マイクロ波とは、波長が1mm?1mの電波。家庭で調理に使う電子レンジは、食品にマイクロ波を照射して温める装置です。)1964年、ベル研究所のアーノ・アラン・ペンジアス博士(1933~)とロバート・ウッドロウ・ウィルソン博士(1936~)は、衛星からの電波を受信する実験中、奇妙なノイズに気づきます。アンテナを空に向けると、マイクロ波が入ってくるのです。 この宇宙からのマイクロ波は、特定の天体からやって来るのではなく、空のどの方向からも降り注いできます。これが宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background Radiation)です。

宇宙マイクロ波背景放射はビックバンの名残

その後の研究で、この宇宙マイクロ波は、100億年以上前、宇宙が超高温・超高密度の火の玉だったとき宇宙を満たしていた放射の名残であることが分かりました。その後100億年以上を経て宇宙は膨張して冷え、その時の放射が今頃になって物理学者たちのアンテナに届いたものでした。宇宙が超高温・超高密度のビッグバンによって誕生したことを証明したペンジアス博士とウィルソン博士は、1978年のノーベル物理学賞を受賞しました。 超高温・超高密度のビックバンにおいて、クォーク、レプトン等の粒子(陽子、中性子、電子等を構成する極小粒子)が飛び交い、衝突し、水素の原子核やヘリウムの原子核が大量に出来、更に大量の「ダークマター」と呼ばれる正体不明の「物質」が生じました。
宇宙マイクロ波を観測すると、そういう有様が観察できます。水素、ヘリウム等の通常の物質やダークマターがどれだけ生じたか分かり、宇宙がいかにして今のような姿になったかが分かるのです。1989年には、宇宙背景放射探査機コービー(COBE;Cosmic Background Explorer)が打ち上げられ、宇宙マイクロ波背景放射の詳細な観測を行ない、ビッグバン当時の宇宙の情報を含んだマイクロ波放射のわずかなむらを検出することに成功しました。コービーのチームはこの功績で、2006年のノーベル物理学賞を受賞しました。 このむらをその約20年前から、計算、予想していたのがピーブルス名誉教授です。宇宙の年齢や物質の質量やダークマター量などを、かなり精密に予想していました。

宇宙の正確な年齢や温度、質量が分かった

現在コービーの観測等から、下記のような測定値が分かっています。 ●宇宙の年齢:13799000000±21000000年、つまり約138億年前です。 ●宇宙の観測可能な範囲(観測可能な宇宙の果て):約467億光年。 (遠ければ遠いほど宇宙の膨張【相対速度】は速くなる。相対速度が光速で遠ざかる天体はどんな優秀な観測機器を使っても我々から見えない) ●宇宙空間の温度:2.718±0.021K(絶対温度)、つまり-270.432℃。 ●宇宙空間に存在するダークマター(質量はあるが見えない物質):通常の物質の5.354倍 ●宇宙区間に存在するダークエネルギー(宇宙の急速な膨張のもとになっていると考えられている未知のエネルギー:通常の物質の14.22倍 ピープルズ名誉教授の宇宙論に対する貢献は多岐にわたっています。 ▲宇宙マイクロ波背景放射を予言 ▲ビックバン時の元素合成の研究 ▲ダークマター、ダークエネルギーの研究 ▲無数の銀河系で構成される大規模宇宙(銀河系団)の構造論等 宇宙論に関するこれら様々な功績に対し、晴れて2019年ノーベル物理学賞が贈られました。宇宙論の草分けであり、文字通りこの分野の泰斗には遅すぎる受賞でした。 参考;JBpress 小谷 太郎「2019年ノーベル物理学賞、宇宙の姿を変えた発見とは」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57934

(続く)

(本記事は、オービットアカデミックセンター会報誌 プラネットニュース 2020年1月号(2019年12月20日発行)に掲載された内容です。)