【後藤敏夫のグローバル教育ニュース】人口減とAO入試化
2019.07.14
AO入試枠(アドミッションオフィス入試枠)が増加すると、日本が約120年にわたって行ってきた<一斉に行われるペーパーテストにより高得点者順に合格者を決定する>入学試験という選考の方式が一気に崩れ出します。 文科省が大学入学共通テストを開始する2020年度を起点に、大学受験改革のポイントの一つとして実施されるのがAO入試枠の拡大です。この改革を急激に実施するのには、いくつかの背景があります。
1.2020年以降に想定される大幅な人口減の影響
昨年、文部科学省は進学率上昇を前提とした今後の大学進学者数を試算し、2月下旬の中央教育審議会の大学分科会将来構想部会に提示しました。試算によると、2040年度の進学者数は2017年度より12万4000人少ない約50万6000人となります。この推定数字は、現在大学進学率52.6%が2040年に57.4%まで上昇することが前提になっています。 すでに経済が長期的に低成長に入っている日本の大学進学率が、今後大きく向上することは考えにくいので、この数字は現実的でないと筆者は考えます。仮に大学進学率が横ばいだとすると、進学者数は2033年に100,666人減、さらに2040年には165,496人減になります(いずれも対2017年比)。なんと、大学進学者数は464,237人まで減ることになります。この状態は、とくに地方では深刻な事態になります。大学の定員が現状のままだと仮定すると、東北6県で大学定員充足率が60%台になるなど、厳しい事情が見えてきます。2.【単一基準(偏差値)による相対評価】から【複数基準による絶対評価】への転換
センター試験のような一斉試験は、いわば【単一の基準(=相対評価)による選考】です。母集団(=学生数)が大きかった高度成長時代には、この篩(ふるい)にかければ優秀な学生が残り、それなりに優秀な学生が選考できました。しかし母集団が小さくなると優秀な学生の数は少なくなります。さらに、ユニークでオリジナリティの高い発想を持つ多様な学生が社会に求められる時代になると、こうした学生を一斉試験で選考・獲得することはかなり難しいと言わざるを得ません。 一方、AO入試は基本的には【複数基準による絶対評価】です。英語等外国語の運用能力の高い学生、数学の応用力の高い学生、科学的なリテラシーの高い学生、海外において豊かな学習歴と経験を持った学生などを評価する入試などです。学生の様々な能力(コンピテンシー)は、在籍校が作成する成績証明書、学習歴報告書、ポートフォリオや外部団体のテストの証明書などによって、大学のアドミッションフィスが精査します。授業、口頭試問、グループ面接の併用も増えています。多様性とモチベーションの高い学生たちによる学習空間の創造が目的
尖った感性を持ったスタート・アップ志向の高い学生の選考も可能になります。外国人留学生や帰国子女も異なる基準によるAO入試の枠で採用されます。ユニークで異なる能力(コンピテンシー)や経験、国籍、宗教等をもった学生を共に学ばせ、多様性の高い学習空間を作りだすことを目標とします。アドミッションポリシー(=複数の評価基準)を明確に決め、丁寧な審査を行えば、大学が求める資質・コンピテンシーとモチベーションの高い学生を獲得する可能性が上がります。 AO入試には公正さは必須ですが、公平さは必ずしも必要ではなく、大学ごとに異なる基準を設定することになります。大学のカラーが鮮明になり、学生が自らの特性を生かした大学選択をしやすくなります。 (ただし、選考に大きな手間がかかることがAO入試の欠点です。)(続く)
(本記事は、オービットアカデミックセンター会報誌 プラネットニュース 2019年7月号(2019年6月20日発行)に掲載された内容です。)