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【後藤敏夫のグローバル教育ニュース】 人工知能の衝撃(3)

2016.07.14

2045年にシンギュラリティ(Singularity)に到達する?!

2005年、アメリカのレイ・カーツワイル(※)が「ポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるとき(The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology)」を著しました。この著書の原題に使われたシンギュラリティ(Singularity)という言葉は、もともとは数学や物理学でよく使われる用語です。数学では、分数の分母がゼロに近づくにつれて無限大に発散するような点のことを指し、物理学では、光速度で移動する光でさえ脱出できないブラックホールのような点のことを指します。日本語では一般に「特異点」と表現されています。ただし、カーツワイルの言うシンギュラリティは数学や物理学で言う特異点とはまったく異なり、「コンピュータが全人類の知性を超えて、人間にとってそれ以降の予測が立たなくなる未来のある時期」を指し、「技術的特異点」(Technological Singularity)という日本語が充てられています。彼はその時期が2045年であると言い、人類にとってきわめて重大な問題が起こり得ると予言したため、「2045年問題」という言葉とともに日本でも話題になりました。 2045年にいったい何が起きるのか―彼の未来予測はきわめてショッキングな内容です。そのいくつかを著書の中から拾い読みすると、たとえば「人間の脳をスキャンしてアップロードできるようになる(つまり自分の脳をロボット-AGIにインストールできるようになる)」とか、「ヴァーチャル・リアリティ(仮想現実)のテクノロジーがさらに進歩して、現実世界との見分けがつかなくなる」とか、「人間の知能は非生物的知能(人工知能)を取り入れて自らの脳を大幅に拡張する(つまり進化させる)ようになる」とか…。これまでの世界とは本質的に全く異なる、「人間社会の在り様や人類の存在意義を根底から揺さぶる世界」がやってくると言っているのです。 これらの内容はいずれもすぐには信じがたいものばかりです。しかも彼は、自らの豊かな知識と想像力を駆使し、豊富な科学的データを根拠にして、この恐るべきシンギュラリティが2045年頃に到来すると予測しているのです。

加速するテクノロジーの進歩・・現実性を増すカーツワイルの予言

近年の科学技術の進歩はすさまじく、特にAGIを軸とするコンピュータ技術と生命科学の進展のスピードは加速度的に早まっています。現在のコンピュータ科学の先端研究は、人間の脳の構造を模しているといわれます。人間の脳には、神経細胞(ニューロン)があって、神経細胞の興奮や反応は神経細胞間の結合(シナプス)を介して、他の神経細胞に伝達されます。この仕組みを模倣したのがニューロコンピュータです。コンピュータ上にニューロンを形成、興奮状態や様々な反応を、神経細胞間の結合を模倣したシナプスを介して伝達します。 2012年には米Google社は、1万6千個のニューロン、10億個のシナプスをもつニューロコンピュータを構築し、YouTubeで猫の映像を一週間にわたって見せたところ、外観が異なる色々な猫の画像を、猫と認識できるようになったと発表しました。人間の脳は、遺伝的に神経細胞の数に限界がありますが、ニューロコンピュータのニューロン数には理論的に限度がありません。人間の脳の神経細胞の数の10倍、100倍、1000倍のニューロン数を持つニューロコンピュータができ、人間の知性を超えるようになるのは時間の問題かもしれません。多くのAGIの研究者は、2045年より前の2030年代には人間の脳の神経細胞のネットワークをそのままニューロコンピュータにコピー…アップロードが可能になるといっています。 人類のAGIを軸とする科学技術がシンギュラリティに到達するといわれている2045年、あなたは何歳になっていますか?!

(続く)

※レイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)はアメリカ合衆国の発明家、実業家、未来学者。人工知能研究の世界的権威の一人。 (本記事は、オービットアカデミックセンター会報誌 プラネットニュース 2016年7月号(2016年6月20日発行)に掲載された内容です。)