【後藤敏夫のグローバル教育ニュース】 人工知能の衝撃(1)
2016.05.14
囲碁でトップクラスの棋士がAIに敗れた!
本年3月、人工知能(AI…Artificial Intelligence)に関するニュースが世界中を駆け巡り、一気に大きな話題となりました。グーグル系の企業ダークマインドが開発した人工知能ソフト「アルファ碁(AlphaGo)」が世界トップクラスのプロ囲碁棋士 イ・セドル九段(韓国出身)と対局。当初イ・セドル九段が全勝するだろうとの世界の囲碁関係者の予想を覆し、4勝1敗でアルファ碁が勝利を収めました。 囲碁は人間が作ったもっとも複雑なゲームといわれ、「人工知能は、いまだ人間の知略を超えるレベルに達していない、10年くらいは勝てない」と考えていたからです。 ご存じのように、囲碁は局面を読むことに始まります。 <初手から決着がつくまでの現れる局面数> チェス:10の120乗 将棋: 10の220乗 囲碁: 10の360乗 この天文学的な局面数を見れば囲碁の複雑性がお分かりになると思います。しかし、局面を読むこと(次にこう打つと、相手は打ってくるだろうという展開予測)に関しては、ソフトウエアの学習機能が高まりコンピュータが高速化すれば、解決する問題です。 それに加えて囲碁は、チェスや将棋と異なり、碁石一つひとつに異なった役割がなく、位置関係によって価値を判断し、形勢判断をします。従来のAIはこれが苦手でした。打ち進めるうちに「こちらが優勢だ」とか「劣勢だ」という判断は【大局観】と言いますが、個々の部分ではなく、局面全体を把握する力【直観】と言い換えることもできます。囲碁の対局は【読み】と【大局観】で打ち進めていきます。トップ級棋士は総じて、一瞬にして大局を見て判断する力を持っています。人工知能はすでに学習機能を持っている
現段階の人工知能は、すでに学習機能を持っています。そこで登場したのが、ディープラーニング(※)という手法です。ダークマインドのチームは、プロの棋士による約3000万種類の局面の打ち手を記憶させ、自分自身との対局を数百万回繰り返させ、白と黒の碁石がどのような配置だと勝つ確率が高いかを学習させていきました。すでに疑似的な局面理解と大局観を持っています。学習機能が向上し、蓄積されるデータが増えるにつれて人工知能は急激に「賢くなる」わけです。人工知能が描くレンブラントの新作
マイクロソフト、デルフト工科大学、レンブラントハイス博物館などのチームが、17世紀バロック絵画の代表的な画家レンブラントの作風を人工知能で再現するプロジェクト「The Next Rembrandt」による作品を公開しました。レンブラントの全作品を表面の凹凸まで詳細にデータ化し、AIの機械学習によって、レンブラント本人が描いたとしか思えない出来に仕上がった「新作」です。モデルは架空の白人男性ですが、「光と影の魔術師」と称される画風や絵の具の隆起まで再現しており、大きな話題を集めています。これもディープラーニングの成果です。(続く)
※ ディープラーニング 脳の神経回路の伝達構造をモデルに、システムがデータの特徴を学習して事象の認識や分類を行う「機械学習」。様々なデータの特徴をより深いレベルで学習し、非常に高い精度で特徴を認識できるため、人の声の認識や、カメラで撮影した画像の認識などで応用が期待されています。 (本記事は、オービットアカデミックセンター会報誌 プラネットニュース 2016年5月号(2016年4月20日発行)に掲載された内容です。)