【後藤敏夫のグローバル教育ニュース】 ノーベル賞について その2
2016.03.14
重力波によるゆがみが確かめられた!
ノーベル賞に関する原稿を書いていると、とてつもないビックニュースが入ってきました。号外級のニュースなので今回はこのトピックについて書きます。 カリフォルニア工科大学(CALTECH)、マサチューセッツ工科大学(MIT)等の国際共同チームが重力波を観測したと発表したのです。物理学には全く素人の筆者にも、これは大変な観測結果が出たと驚きました。 重力波とは、ブラックホールなどの質量が非常に大きな物体が動く際、周りの時空間(時間と空間)がゆがみ、そのゆがみが波のように伝わる現象のこと。アインシュタインが1915~16年に発表した一般相対性理論に基づき予言し、100年にわたって「アインシュタインの最後の宿題」と言われてきました。 一般相対性理論は、宇宙の膨張やブラックホールの存在、その他多くの予測が観測などから正しさが検証されてきましたが、重力波による時空のゆがみは極めて小さいため、今まで観測に成功した例はなく、1世紀にわたって理論の検証ができませんでした。世界中の物理学者のチームが精密な観測機器を製作し、このゆがみを探し続けました。重力波天文学の夜明け
この重力波探査に転機が訪れたのがレーザー干渉計型重力波検出器※1(重力波望遠鏡とも呼ばれる)の開発です。今回世界で初めて、「重力波によっておこる時空のゆがみ」がワシントン州とルイジアナ州の2か所に設置されたLIGO(ライゴ)という最新のレーザー干渉計型重力波検出器によって同時に検出されたのです。 今から13億年ほど前に、質量がそれぞれの太陽の29倍と36倍という、太陽系の尺度から言えば途方もない巨大なブラックホール同士が合体、融合し、その結果ゆがんでしまった時空間のひずみが、約13億光年を伝播してきて、3000キロメートル以上離れた全く別の場所で同一の信号として観測されたので、これはファクト(検証可能な事実)だと言っているわけです。この発見(検出)によって重力波天文学…ブラックホール観測天文学というべき分野が大きく発展することになりそうです。物理学に対するインパクトの大きさは相当なものです。 重力波を実際に捉まえられるようになったので、一般相対性理論やそれに量子力学を適用した基礎理論から、宇宙のありよう(時空間の構造、宇宙の始まり等)を観測によって検証することが可能になったのです。重力を含む超統一理論に向けての、最初の実験結果…ファクトが得られたという大きな衝撃です。重力波望遠鏡KAGRAが今年本格稼働する
2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊博士が企画制作したカミオカンデが超新星爆発による世界最初のニュートリノを捉えました。これによりニュートリノ天文学が幕を開けました。小柴博士の弟子、梶田隆章博士が「ニュートリノ振動」を観測し、ニュートリノが質量を持つことを示すことで、昨年ノーベル物理学賞を受賞したことは記憶に新しいところです。 世界初の重力波検出には至りませんでしたが、梶田氏の指揮下、最新鋭のテクノロジーを装備した重力波望遠鏡KAGRA※2が今年中に本格稼働予定です。重力波観測天文学の一線に立ち、国際的な連携を取りながら数々の観測結果を出すことが期待されています。(続く)
※1 レーザー干渉計型重力波検出器 http://gwcenter.icrr.u-tokyo.ac.jp/plan/history ※2 重力波望遠鏡KAGRA http://gwcenter.icrr.u-tokyo.ac.jp/ (本記事は、オービットアカデミックセンター会報誌 プラネットニュース 2016年2月号(2016年2月20日発行)に掲載された内容です。)