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【ホームページリニューアル記念】後藤敏夫のグローバル教育情報 シンガポールの大学

2022.03.30

Covid-19の影響はグローバル教育においても大きな影を落としています。特に、国境を越えた移動の制限は学生ビザの発給や発給後の入国制限により、グローバル大学としての評価である、‘ダイバーシティ(Diversity_多様性)’に大きく変化をもたらしています。もちろん各大学でオンライン体制が万全であっても、教授や講師の移動や新規着任、実験や実習などの実施などに支障があり、予定されていたコースやプログラムがキャンセルされたりしています。以下にある2012年と2022年の「国際学生比率」の数字にも端的に表れています。そのため、この数年の変化については慎重に評価を加えていくことが必要となっています。今回はいつもと少し角度を変えてシンガポールのトップ大学についての解説をします。

QS世界大学ランキング2022 シンガポールトップ2の大学の飛躍的なランクアップ


シンガポールのトップ2の大学である、シンガポール国立大学_National University of Singapore(以下、NUS)と南洋工科大学_Nanyang Technology University (以下、NTU)は10年間で驚異的なランクアップを果たしました。2022年度 QS _Quacquarelli Symonds (以下、QS)世界大学ランキングを見ると、NUSは2012年に25位だったのが、2022年に11位に上昇しています。同様にNTUは2012年47位が2022年12位です。この急激な成長はシンガポール政府と両大学の的確な戦略の賜物であると考えられます。

ランク上昇最大の一因は、「論文被引用数」のスコアの急激な上昇です。(以下の表を参照)

NUSの論文被引用数のスコアは、51.1ポイント(2012年)から90.6(2022年)に、NTUは26.(2012年)から95.5ポイント(2022年)まで増加している。10年以上前から満点かそれに近い「外国籍教職員比率」が10年間戦略的に行われてきたことにより「論文被引用数」という成果に結実したと言えます。本稿では、このスコアアップを導いたシンガポールの戦略について、NUSを例にとって解説をします。



表:QS世界大学ランキング2012年と2022年の比較

引用文献:QS World University Rankings 2022, 2012

University Townから見える政府の構想


この国家戦略の要のひとつに、2011年8月にオープンしたNUSのUniversity Townがあります。University TownはNUSのメインキャンパスに接続して開発された新しいキャンパスです。近代的な研究棟では産学共同プロジェクトによる最先端の研究が行われています。それらの研究棟に隣接したビルのいくつかは、外国から招聘(しょうへい)した教授、研究者用の住居棟となっています。この住宅施設はキャンパス内の寮というイメージからは程遠く、家族帯同用に快適な広さのあるコンドミニアム型のものです。住居と研究棟を単に行き来して、短期間研究に没頭してもらうような設計ではなく、まさに、アメリカや欧米のリベラルアーツカレッジや総合大学のキャンパスと同じように、広々とした緑の景観の中で快適に学究生活ができるような環境設計になっています。

またUniversity Townに隣接して、2005年に開校されたNUSの付属校(13際~18歳対象 教師1名に対して生徒数10名の構成のエリート養成校)や、名門のジュニアカレッジのいくつかがUniversity Townにほど近いところにあることも注目に値します。

シンガポール政府は長年、世界的企業、金融機関や研究機関をアジアの本部拠点として集めながら経済発展を進めるとともに、大学キャンパスにも産学共同研究に適したインフラを整備して、優秀な研究者が容易に集まりやすい構造を作ってきました。大学の教育と環境の整備に欠かせない優秀な研究者・教育者が途切れることなく長いスパンでシンガポールに滞在する仕組みを作り上げました。

一方で、大学は国内のみならず、世界中から優秀な学生を集めコンピテンシーの高い卒業生を世界中の企業・研究機関に輩出し、雇用者(企業)の高評価を獲得し、また産学共同事業に還流する総合的なフローを作り上げています。世界的に注目されるレベルの論文が多く発表されて、「論文被引用数」が上げる目標も難なくクリアしていったことがうなずけます。

英語と民族語による教育の成果


ランキング項目にはありませんが、上記の国家的構想を支える要因の一つはシンガポールの大学の教授言語が英語であることです。英語によるプログラムがあることがグローバル大学の要件ですが、シンガポールでは建国以来、英語を他の民族語(母語)と共に教育言語にして「複言語教育」をしてきたことにより、ローカル人材は英語と民族語である中国語、マレー語、タミル語のいずれかの複言語を身に着けています。英語、中国語、マレー語の3か国語をビジネスで駆使している人材も多くみられます。この「複言語教育」こそが、大学のグローバル化の背景となっています。

そのため、NUSとNTUのみならず、シンガポールの大学は他の言語を主要な教授言語とする非英語圏の大学(日本、中国やタイ等)より世界的な評価が上がりやすいのです。

こうして、建国以来のシンガポール政府のマクロ的構想の中での、言語政策、教育戦略によって、シンガポールの大学は世界のトップ大学として注目を集めています。

オービットホームページリニューアル記念 特別書き下し 代表 後藤敏夫